Oenology 醸造について

どこから話しましょうか? 赤ワインの作り方を順番を追っていくと、ブドウ収穫⇒除梗破砕⇒タンク投入・浸漬⇒酵母添加・発酵⇒プレス⇒樽詰め⇒樽熟成⇒瓶詰め⇒瓶熟⇒リリースという事になります。では、ブドウ収穫から

【ブドウ収穫】
弊社では、十分糖度が上がってしばらく完熟させフレイバーライプネスが実現してから収穫しているように心がけていますが、天気やブドウの状態によりそれができない場合があります。ブドウが傷んでしまったら、その部分は収穫時に除いて健全果のみ次のプロセスに進みます。

【除梗破砕】
最近は除梗も破砕もせず全房発酵をする人もいるようですが、弊社では基本全部除梗破砕しています。ピノ・ノワールなど、一部のみ破砕を弱くしたりしなかったりという場合もあります。破砕しないと、粒のまま発酵するので独特の香りが出ると言われています。ボージョレ・ヌーボーは二酸化炭素を充満した容器の中に全房で放り込み、下部のブドウは重みで潰れ嫌気的環境で発酵が始まります。これにより果実感の豊かな香りになると考えられています。それに似た状態を粒の中で起こさせようというのが無破砕だと思います。この時軸(果梗=stem)も一緒に投入してよりタンニンをワインに加えようとする方法もあります。弊社では、あまりタンニンを強くしたくないので除梗を行っています。

【タンク投入・浸漬】
除梗破砕機からタンクへの投入時ポンプを使ってタンクに粒やジュースを送り込みますが、この時ポンプやホースの中でブドウの粒い力がかかる、つまり乱暴に扱われるので、それを避けるために重力を使うという考えがあります。 グラヴィティー・フロー(Gravity Flow)という考え方です。また、除梗破砕から一切空気との接触を断つという考えから(果汁の酸化を防ぐため)不活性ガス充填を行うこともあります。いずれも、ブドウを丁寧に扱おう、酸化などを防ごうという考え方です。 弊社では、醸造所の仕組上それができないので、ポンプを使いまた不活性ガスの充填はしていません。今後は採用する可能性はあります。
また、除梗破砕時にPMS(phosphermetabisulfite=亜硫酸塩)を加えています。これは、不要な最近の繁殖を抑え果汁を健全に保つためです。最近「無添加」といって亜硫酸塩を加えないワインも流通していますが、弊社では現在亜硫酸塩を使っています。
また、タンク投入後酵母を加えるまでに2~3日皮と果汁を漬け込む浸漬をする場合があります。気温が高かったりブドウの状態によってはしない場合もあります。なお、ピノ・ノワールの一部では、一旦温度を下げて漬け込む低温浸漬という方法をトライアルで行いはじめました。

【酵母添加・発酵】
ブドウ果汁は、放っておくと皮等についている自然酵母(土着酵母、野生酵母ともいう=indigenous yeast, wild yeast)により発酵が始まることがあります。また、自然酵母のみで発酵を行っているワイナリーも有るようです。弊社では、乾燥ワイン酵母を使っています。一番の理由は、安定的に発酵を促し汚染臭である硫化水素の発生を防ぐためです。酵母にはキラー性といって、他の酵母の増殖を妨げる働きがありますが、早く同一の酵母が優勢になることで、途中で発酵が止まったり不要な成分の生成を抑えるという考えです。但し、温度が高い環境下では自然と発酵が始まってしまうことがありますが、そういう場合は自然のなすがままに任せています。

マストという言葉があります。発酵中の果汁の事で、皮・種・その諸々の果実の成分が含まれています。赤ワインの発酵中は、アルコール発酵によって生じる二酸化炭素がマストの成分にくっつくのでそれがマストの表面に浮いてきます。皮や種がマストの上部に層を成します。これを果帽(cap=キャップ)といいますが、皮が浮いて来てしまいますので、これを突き崩してワインと良く混ぜてやる必要があります。この作業ことを櫂入れ、パンチング・ダウン、ピジュアージュといいます。皮から色素やタンニン、香りや風味の成分がでるので、これをワインに取り込んでやる大事な作業です。ですが、あまり強くやると余分なタンニンまで出てしまい、渋さが強調されてしまいます。そこを、より優しく行う為に、ポンプでマストを果帽の上から掛けて混ぜてやる方法も取られます。これをポンピング・オーヴァーといいます。櫂入れやポンピング・オーヴァーは、混ぜてやりつつ空気も補充してマストが呼吸できるようにしてやります。激しい酸化ではありませんが、微小な酸化を促してマストの中でより複雑な酸化還元反応が起こるようにしてやります。微小な酸化はワインを美味しくしますが、これは樽で熟成させるのと似た考え方です。

ところで、ワイン酵母ですが、これは嫌気的環境でも好気的環境でも活動する酵母です。発酵が始まるまでと発酵の初期段階では空気に触れていいて果汁の糖分を栄養として増殖していきますが、発酵が活発になると二酸化炭素が充満するので空気と触れることはありません。ほとんどアルコール発酵は嫌気的環境で進行します。

【プレス(圧搾)】
発酵が終わったワインを圧搾して、ワインと皮・種を分ける作業です。プレス機の原理によりバスケットプレスとメンブレンプレスがあります。使い勝手から言うと、バスケットプレスよりメンブレンプレスの方が効率が良いのでどのワイナリーでもメンブレンプレスを使っています。が、かつてはバスケットプレスしかなかった時代があり、また少量のプレスもできるので弊社は状況に応じて両方使っています。

【樽詰め・樽熟成】
ワインは、できたて、つまり発酵が終わってプレスした直後はあまり美味しくありません。これが熟成という期間を経て美味しくなってゆくわけです。できたてのワインは、その成分が一つ一つ単体で存在していると想像してみて下さい。そうするとタンニンは尖って感じますし、ワインはフレッシュ感はあるのですが味のまとまりが無く美味しいとは感じないのです。それが、その単体が長い時間をかけてお互いにくっついたり(重合)、くっつく際に一部が取れたり(縮合)して新しい成分になっていきます。その新しい成分ができる際に色素を取り込んだりして色が変わったり味が変わったりします。タンニンやポリフェノールの一部が等が新しい形になるわけです。当然その成分の分子量も大きくなりますから、あまりに重くなってワインに溶けきれなくなったものが澱として析出して来たりします。物質間の電子のやり取りのことを酸化還元反応といいますが、木肌を通して僅かに出入りする空気により微小な酸化も起こります。これらの化学反応や酸化還元反応によりワインは熟成され香りや風味が変化し美味しくなってゆくのです。

このような非常にゆっくりした変化をステンレスタンクの中でも促す為に、微小酸化(micro-oxidization)という技術を用いるワイナリーも有るようです。ステンレスタンクに金魚鉢の送空機の様な装置で空気をブクブクさせるわけです。ワインに取っては、酸化は厳禁ですが、微小酸化は品質向上に役立つ訳です。

ワインは樽と接触していますので、当然樽の成分と相互作用が起こります。樽のタンニンやその他の成分がワインに溶けだしてきて、樽の風味を加えたりその成分により新たな物質が生成されたりします。ヴァニラの様な香りも樽由来と考えられています。大樽の方が容量に対して表面積が小さいので樽の影響は小樽より小さくなります。ですから、求めるワインのスタイルによって使う樽の大きさも違って来ます。

また、樽のなかで起こさせる大きな変化にマロ・ラクティック発酵(マロ乳酸発酵)があります。これは乳酸菌の一種がワインの成分であるりんご酸に働いてそれを乳酸に変える発酵のことで、頭文字をとってMLF(Malo-Lactic Fermentation)と呼ばれます。この発酵により酸がやわらぎ、ミルクの様なニュアンス(トフィーというお菓子やキャラメルやバターの様な風味)が加わりワインの味を一層複雑にします。樽の表面にはいろんな微生物がついていますし、ワインそのものに中にもいろんな微生物がいますので、放っておいてもMLFが起こる事もありますが、効率よく安定的に起こさせるためには選択的に培養された乳酸菌を使います。 MLFを起こしたワインとそうでないワインはかなり風味が違いますので、両方をブレンドして求めるスタイルにすることも良く行われています。

貯蔵されている樽の上に変わった形の栓がされている場合がありますが、発酵栓といってMLFによって生じるガス(二酸化炭素)を樽の外に出し、かつ外の空気を樽の中に入れない為のものです。発酵栓はチューブを垂直方向にS字にした形になっているものが多く、その中に水などを入れて普段は空気と遮断しているわけです。

弊社では、赤ワインについてはすべてを樽詰めし約1年程熟成させ途中MLFを起こさせます。また、白ワインの一部シャルドネなどは樽熟成させMLFを起こさせます。そうすることでワインの風味がより複雑になり美味しいワインになるからです。

【瓶詰めからリリースまで】
約1年程度樽熟成されたワインは、樽ごとに香りや味を確かめたあと樽から出され、タンクでブレンドされます(おなじ品種同士もしくは違った品種)